平田オリザのとなえる「現代口語演劇」は、90年代に大きな注目をあつめ、わが国の現代演劇にすくなからぬ影響を与えています。

 人間は日々の生活のなかで、大恋愛や殺人事件ばかりを繰り返しているわけではありません。人生の大半は、これまでの演劇が好んでとりあげてきた大事件とはまったく無縁な、静かで淡々とした時間によって占められています。平田オリザはそのような静かな時間を好んで演劇の題材にとりあげます。人間が存在することは、本来が驚きに満ちたことであり、その存在自体が劇的です。人間の生活はそれ自体が本来、楽しく、優美で、滑稽で、間抜けで、複雑で豊かな様相を内包しています。私たちは、その複雑な要素を抽象化しながら舞台上に再構成し、その静かな生の時間を、直接的に舞台にのせようとする試みをつづけています。

【本公演】『三人姉妹』舞台写真

 他の同世代の劇団と際だって異なる青年団の特徴は、その実践過程と演劇理論を、『現代口語演劇のために』『都市に祝祭はいらない』『演劇入門』『芸術立国論』などの著作やワークショップを通じて、常に社会に開き、問いかけ続けてきた点にあります。平田オリザと青年団は、こうした実践的で新しい演劇理論にもとづいて、これまでになかった演劇様式を、一歩一歩着実につくりあげてきました。私たちは、「現代口語演劇」が、そのすべての完成をみたときに、現代日本社会の錯綜する精神状況を映し出すことのできる真の「現代演劇」が誕生するのだという自負をもって、日々の創作をつづけています。

 また日本語の特徴に特化した演劇理論が、逆に、オリジナルな演劇論として海外でも注目を集め、フランス、韓国、カナダ、東南アジア諸国など、多くの国々で平田自身がワークショップを行い、大きな反響を呼んできました。