ロボットから『砂と兵隊』へ

2010年9月02日

 いま私は、パリ郊外のサルトルビルという街に来ています。
 この冬のシーズンに、サルトルビル国立演劇センターからの委嘱で、子ども向けの作品『銀河鉄道の夜』を作ります。今回は、そのプレ稽古で、一週間、この街に滞在します。
フランス語版『銀河鉄道の夜』は、四人だけの出演、一時間弱の小さな作品です。もちろん全編フランス語。1月末から4月上旬まで、パリ郊外のイブリン県を中心に巡演を続けます。
 宮沢賢治は、フランスでは、まだあまり知名度がなく、この偉大な作家をフランスの子どもたちに紹介できるのは、私にとって何よりの喜びです。
プレ稽古といっても、金曜日には地元の子どもたちを招待して、ワークインプログレスのリーディング公演があり、すでに俳優たちには、立って稽古をしてもらっています。コンセルヴァトワールを出たばかりの若い俳優二名を含む四人は、とても優秀で、私はすでに、公演の成功を確信しています。

あいちトリエンナーレのオープニングを飾ったロボット演劇『森の奥』には、多くのお客様においでいただき、本当にありがとうございました。
ロボット演劇初の有料公演は、歴史に残る公演になったと自負しています。
多くの方々に、ロボットが自発的に動き、発話していると感じていただけたと思います。もちろん中には、「まったくリアルに感じられなかった」という声もありました。私たちは、この反応自体を誇りに思っています。なぜならそれは、二十年前、私たちが現代口語演劇を標榜し、演劇界に登場してきたときと同じ反応だからです。
 リアルな劇言語は、自明のものとしてあるわけではありません。現実に近ければリアルになるわけでもありません。それらは確実に、どこかで作られ、発展し、淘汰され、生き残っていくものだと私たちは考えています。
私たちはこれから、いままで誰も見たことのない「ロボットのリアルな言語」を創り出していきたいと思います。
並行して作ってきたジェミノイド(アンドロイド型ロボット)によるインスタレーションも、近々公開の予定です。詳細は青年団のサイトにて告示しますので、いましばらくお待ちください。
ロボット演劇、ジェミノイドのインスタレーションとも、来年以降、海外展開を行う予定です。

今月16日からは、いよいよ『砂と兵隊』の再演が始まります。
自衛隊のイラク派遣に想を得たこの作品ですが、五年の時を経て、また途中に、フランス版の制作が挟まれたことによって、より冷静で明晰な演出を加えての再演にできるのではないかと思っています。
10月には、フランス語版の上演も行います。昨年3月に、ジュヌビリエ国立演劇センターで制作した全編フランス語版の作品(日本語字幕付き)です。上演回数が少ないので、ぜひ、お早めにご予約ください。
この『砂と兵隊』の公演が終わると、東京での青年団本体の大きな公演は、来年10月まで、約一年間ありません。ぜひ、この機会に、アゴラ劇場に足をお運びください。