ハル大学『カガクするココロ』

2010年3月27日

 1月初旬からの『鳥の飛ぶ高さ』フランスツアー、そして2月のリヨン国立高等師範での一ヶ月の客員教授、招聘芸術家としての生活を終え、3月8日に完全帰国しました。
 『鳥の飛ぶ高さ』は、パリ市立劇場はじめ、どの会場でも好評で、ル・モンドにも大きな記事が載るなど、高い成果を収めました。在仏中に、ミッシェル・ビナベール氏の原作と私の翻案が対になった仏語版の戯曲集が出版されたことも大きな喜びでした。ビナベール氏は、カーン国立演劇センターでの初日に、83歳の誕生日を迎えました。
 リヨン国立高等師範では、初めて芸術家を招聘するという栄誉に浴し、学生たちと楽しい一ヶ月を過ごしました。最後に20分ほどの芝居を二本創り、どちらもたいへん好評でした。この間、フランスの高等教育のシステムも学ぶことができ、有意義な日々でした。リヨン国立歌劇場の常任指揮者である大野和士さんと、何度か食事をしたり、新作オペラのリハーサルを見せていただいたりといった至福の時間も過ごしました。
 
 ヨーロッパ滞在の最後にイギリスに渡り、ハル大学で自作『カガクするココロ』の上演を見てきました。
 以前から交流のあるティム・キーナン教授の演出、18歳から21歳という、若い学生たちによる上演は、とても新鮮なものでした。
 『カガクするココロ』は、大学の研究室を舞台にしていることもあって、桐朋学園、舞台芸術学院などでも取り上げられ、私自身も桜美林大学では学生と一緒に上演をしました。また韓国での若手劇団の上演も続いています。
 二十年も前に書かれた作品が、こうして、地球の裏側で、若い俳優のタマゴたちによって上演されることは、劇作家として、これほどの喜びはありません。
 この作品は、4月1日より、アゴラ劇場での上演が予定されています。観客の皆さんは、この上演を見て、「あぁ、本当に軽々と、芸術は国境を越えるのだな」と実感していただけると思います。
 
http://www.komaba-agora.com/line_up/2010_04/hull.html
 
 日本語で書かれた作品を、ほぼそのまま、英語に翻訳して上演していますので、日本の皆さんには、違和感を感じられる部分もあるでしょう。たとえば、「おれ英語苦手なんだもん」といった台詞が、そのまま英語で語られます。
 しかし、そこもまた微笑ましく思っていただけるだろうと、私は、実際の上演を見て感じました。芸術が国境を越えるのではなく、若さの持つ悩みや苦しみや喜びが、国境を越えて共有できる感覚を生み出すのかもしれません。私たち劇作家の仕事は、ただそれを、記述していくだけなのかもしれません。

 さて、私の方は、現在、『革命日記』の稽古、いくつかの台本の執筆が続いています。
 文学座上演台本『麦の穂の揺れる穂先に』は完成して、4月に稽古開始を待つばかりです。ご期待ください。
 来週は、またパリに三日間だけ、来シーズンの創作のためのオーディションに行きます。『銀河鉄道の夜』を子ども向けのお芝居にします。この作品も、いずれ、日本で上演できたらなと願っています。
 
 先般、青年団演出部の柴幸男が岸田国士戯曲賞を受賞しました。弱冠27歳、私が『カガクするココロ』や『ソウル市民』を書いた年齢です。二十年後、彼の作品が世界中で上演されるようになることを期待したいと思います。