杉山至のイタリア日記

02/01/19(土)

---土曜日も工房へ---

なかなか平日のリズムが戻って来ない。
今日は土曜日だが工房へ出かける。
別に土曜日も工房はやっているのだが、
さすがに土曜日、日曜くらいは、私としては他の用事にも使いたいと考えての事。
なんだか、イタリア人は良く働く。
トニーノさんの工房だけかもしれないが、、。

なんでも今日はサンカルロ劇場付きの舞台美術家がやってきて、
先日からこの工房で製作している次回のサンカルロ劇場での
オブジェに特殊加工をするとの事。
イタルも是非見に来いとトニーノさんに誘われたのだ。

しかし、工房に着いてみると、トニーノさんがどうも
今回はそんなに特殊な加工はしないらしいと言う。
実際の作業を見ていたら、どうやら発泡ポリ溶液と
硬化剤を混ぜて、発泡スチロールの表面に粗いスポンジローラーで
凹凸を付けていくというものであった。
感じとしては、ケロイド状の特殊加工といったらよいか、、。

全体の3分の1くらいまで作業をして、サンカルロの人々は引き上げた。
次回は水曜日といっていたが、、。やはりゆっくりと作業する人もいるのだ。
イタリアではそのあたり個人主義というか個人の時間感覚を大切にするように感じる。

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02/01/20(日)

---オペラ歌手夫妻の家で---

先日、会った調律師の2人と我々で、カポディモンテの丘の上、
ナカヤマ夫妻のお宅を訪ねる。

ベスピオが真っ正面に見える素敵な部屋だ。
ご主人はこちらの音楽大学に通い、
奥さんもオペラ歌手だが現在は育児で仕事の方は休んでいるとのこと。
生まれたばかりの赤ちゃんと一緒にこのナポリでたくましく生活している。

今日はこのナカヤマ夫妻のお宅で調律師のノブさんが魚料理をするという企画で集まった。

オペラ歌手と調律師と舞台美術家という不思議な組み合わせの夕食会。

食べたのは、ワインを飲みながら、コッツエ(ムール貝)、それから
フライパンで焼いた魚(なんでも南米産?)のタマネギの入ったホワイトソースがけ。
フォルマッジョ(チーズ)の入ったパスタ、そして須藤さんが家で作って持ってきた、
卵焼きと鶏肉と椎茸という和風の付け合わせと
もう一人の調律師ジュンペイさんが持ってきたチーズ。
まあ、私はワインを一本買ってきただけ、、。
いや、しかしみな料理がうまい。私も少しは覚えないと、、。

何の日ということではないのに、
ベスピオのふもと、時たま、遠くに上がる花火を見ながら、
とりあえず、今日もおいしい、晩餐となりました。

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02/01/21(月)

---八重樫さんナポリに現る!!---

今日はゼストや突貫屋でも舞台監督や演出部としてお世話になっている、
八重樫さんが奥さんと共にローマからこのナポリにやって来る。
成田からミラノそしてローマというルート。
ローマに4泊、ナポリに3泊というスケジュールで来られているとのこと。

私は、朝はアカデミアへ、昼過ぎに八重樫さんを駅に迎えに行って、
午後は語学学校へ。
なんだか、今日はちょっと日本風に忙しい。

夜は八重樫さん達と家の近く、お気に入りのレストランテ「ベリーニ」に出かける。

話を聞くと、ローマでは毎日朝7時くらいに起きて、ほとんど名所は見まくったとのこと。
スペイン階段でちゃんとジェラートも食べたらしいし、、。

いや、しかし、知り合いが来るとやはりうれしいものだ。
なんだかナポリを気に入って帰ってくれるように願うようになるから不思議だ。

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02/01/22(火)

---オペラ「トウーランドット」観劇@テアトロ・サンカルロ---

昨夜はちょっと雨が降っていたが今日はなんだか暖かい。
東京の3月初旬くらいの暖かさだ。

今日のメインはオペラ観劇。
最近そうしているのだが、こちらのオペラや演劇は開演時間が遅すぎるので
夕方ちょっと休んでから出かけることにしている。
イタリアのリズムにはやはり昼とか午後に一度休憩が入るという
のがなんとなく習慣としてあるようだ。
我々もそれにならってちょっと家で休み、軽く食事してから観劇に出かける。

今日の開演は8時半、しかしいつものようにやはり終演は11時半を回っていた。
ここで、今回のオペラについて、、。

---「トウーランドット」@テアトロ・サンカルロ---

---まず、サンカルロ劇場について---

ミラノ・スカラ座、ローマ・オペラ座と並ぶ、ご存じイタリア三大歌劇場の一つ。
しかし、まず、注意しなければならないのは以下の点だ。
これは王宮の一角にある劇場で、言ってみれば、王宮に付随する娯楽施設として
建造されたものだといえる。
一般市民の為の施設ではなく、ある限られた階層の人々の為の施設として建築家が考えて設計、
施工されているということだ。だから同じ「劇場」といってもF1の車と乗用車が違うように
その用途は全く違うと考えなければならい。すくなくともその創建当初は、、。
同じ舞台芸術でもシェークスピアのグローブ座などとは本来からして建物の目的が違うのだ。

ともあれ、やはり内部は絶句するほどの豪華さ。そして、音の響きも悪くない。
キャパ(1500名)と劇場の規模の割には舞台の大きさは程良く、見やすいし音も明瞭だ。
ギリシャ、ローマの劇場から始まり、パラディオ以降イタリアの劇場建築が培ってきた、
一つの「空間」のある種完成された形がここにある。
日本人が100年前にヨーロッパから輸入し、一応定式化したあのプロセニアム劇場は、
一体なにを手本にしたのか?

ここにあるこのサンカルロ劇場は、装飾の豪華さといった点だけでなく、
劇場本来の目的である、ソフトを生かす為の「機能的な空間」という
見事な空間的質を保持しているのだが。

---作品概要---

今回のこの作品のプロダクションはアメリカ・サンフランシスコの劇場で
立ち上げたものがイタリアに来たというもの。
ただ、全てがそうというわけではなく、歌手はナポリの人がいたりと今回の公演の為に
新しく変更したところ、また地元の人間を使ったという複合的な公演であるといえる。
しかし、美術や衣装はオリジナルのままだ。

ともかく、今回の公演の主役は舞台美術だろう。
(パンフレットでも一番大きく取り上げられている)
美術はデビット・ホックニー。ご存じアメリカのモダンアートの大御所だ。
だから、この美術の強いイメージで作品全体はとてもモデルナ(現代風)
に仕上がっているといえる。

感想としては、初めてイタリアに来て美術が凄いと思った舞台であった。
第2幕では、途中ドロップが飛んで、そのドロップの紗幕ごしに奥の舞台が現れたとき、
思わず声を出してしまった程だ。

まず、作品全体として。
生意気だが、どうも楽曲が好きになれない、と感じた。
オペラを楽しむ上ではこれは致命的なのだが、プッチーニのこの作品はどうもここという決め所
が弱いような気がした。
ベルディの「トラビアータ」などもう決め所のオンパレードという感じなのだが、この作品では
登場人物150人前後(数えました)の大スペクタクルという方が優先していて、
なんだろうか、芯の弱さというか、、。
作品全体を通しての楽曲のまとまりに欠けるような気がしたのだが、、。

1920年代の作品ということで、芸術の分野ではモダンムーブメントが始まった時代であり、
それがクラッシク音楽にも影響を与えているのではないだろうか、、。
そのあたりの微妙な時代の意識を引きずっているようなそんな気がしのだが、、。
隆盛期を過ぎたオペラというか、、。
まあ、こちらは素人なので、深入りせずに、物語・美術のことへ、、。

物語の舞台は中国の王宮。
皇帝の美姫が婿を探している。
しかし訪れた男に難解な質問をして、答えられないとその場で首を切るという。
そこにある外国の若者がやって来て姫の美しさに思わず挑戦し、全ての質問に見事答えるが、
姫は結婚を拒む。
今度は若者が自分の名前を答えられたら、自分が死にましょうと姫にいう。
そこで姫は若者の名前を探るため、若者の従者の女性を拷問にかけ聞き出そうとするが
彼女は若者を愛しているが故に答えず、自ら命をたつ。その事でなぜか姫は愛に目覚め
(この辺りがよくわからない、、)ハッピーエンドとなる。

美術はホックニーのあの鮮やかな色彩で中国の紫禁城等に代表される、
壁面の赤と屋根の緑青(銅が錆びた緑)のホックニー的な色合いのコントラストがまず目を引く。
そして、切り絵の手法を使った極度なパースペクティブの表現と非対称のとても計算された造形。
そして傾斜を伴った床面がさらにこの絵画的空間に流動性と奥行きを与えている。
絵画と空間と色彩の絶妙なバランス。天才的でしかしとても計算された構成。
今回の美術の凄さはここにある。
一幕と二幕の美術は形態として対になり、その大胆な造形が
この物語のイメージにさらなる広がりを与えている。
圧巻の一言に尽きる。
しかし、三幕の美術はちょっと抽象的に走りすぎた感があった。
一幕が下手奥に上がるスロープ、二幕が上手奥にさらに高い位置に上がっていくジクザクの
スロープ、そして三幕が中央に太鼓橋という作品全体から考えられた空間構成になっているのだが、
三幕だけは唯一構築物としてこの太鼓橋があるのだが、それが抽象的に単純化されすぎていて
ちょっと間違えるとディズニーのアニメのようにも見えるのだ。そしてさらに、全体を洞窟のような
不気味な木の切り出しパネル(形態はこれぞホックニーという見事なものだが)が囲っているのだが、
これがまたその漫画的雰囲気を強めている。

確かにこれがホックニーの世界の核心なのかもしれないが、
一幕と二幕の美術と作品とのバランスの良さに比べると、
三幕は美術一人勝ちで、どうも登場人物が生身の人間ではなくぬいぐるみを被っている
キャラクターのように見えてくるのだ。
プッチーニの死で未完成に終わっているという事も手伝って、3幕の世界は明快ではない。


このあとオペラはその隆盛期を過ぎ、アメリカでミュージカルが誕生し、音楽と登場人物と
美術と劇場というこのオペラが築き上げた一つの微妙なバランスの世界は崩れていく。
なんだか、私はこの「トウーランドット」という作品にそんなオペラの過渡期を感じたのだが、、。

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02/01/23(水)

---八重樫さんたちと夕食---

今日は明日ナポリを発って東京の戻る八重樫夫妻を呼んでの夕食会。
久しぶりにちょっと贅沢して、といっても
10.000リラ(600円それでも一応D.O.C.G)と540円のワインを買って、
チーズとプロシュート(生ハム)というイタリアンな夕食を我が家で堪能。

ともかくナポリの印象を良くしたい?ので、ナポリだからこそおいしいモノを 須藤さんの舌で買い集め食卓に準備して、、。

八重樫さん達はローマ、ナポリと一週間ちょっとの滞在だが、
とても精力的に色々と見て回ったようだ。
我々がまだ行っていないカプリ島にも行ったが、季節がら青の洞窟に行く
船は無かったらしく、またの挑戦となったならしいが、、。

久しぶりの肉声による日本の状況などを聞いたりして、、。

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02/01/24(木)

---和風フェスタ---

久しぶりの荒れ模様。
夕方から雨が降り始め、雷も鳴る。

しかし、今日はアカデミアの学生を数人呼んで我が家で夕食会だ。
雨の中、彼らとの待ち合わせの為にアカデミアまで出かけるが、なかなか現れない。
結局イタリア時間、30分ほど待って一人現れる。
それから、友達の家に別の友達をピックアップしに出かけ、
結局1時間半ほど遅れて、食べ始めるということに、、。

しかし、夕食会は楽しかった。
今日は須藤さん得意の和風ということで、
おにぎりと鶏肉の醤油煮、それに卵焼きというメニュー。

まず、到着した彼らが開口一番、おにぎりを見て、
アニメ(カルトウーン)で見たのと同じだ!!と叫んだ。
日本のアニメの影響力の凄さに改めて驚く。
そして、彼らは箸を使った事がなかったらしく、
だからまず、箸の持ち方から教えて、おにぎりを食べて、、。
あと海苔も初めてだという。
海藻だといったら、ちょっと気持ち悪がって食べなかった人もいたが、、。
梅干しは以外と大丈夫らしく、健康食品だといったらがんばって食べていたし、、。

とりあえず、今日の和風夕食会は成功。
最後にナポリの女の子が作って来てくれた、パスタの生地を細かく切って揚げた
ドルチェ(お菓子)を食べた。
先日同じものを須藤さんがお店で買ってきたのだが、それと比べられないくらい今日のこの
お菓子はおいしかった。
イタリアの食べ物は結構そういうものが多い、お店で売っているものより、
手作りの家庭の味の方がおいしい。

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02/01/25(金)

---金曜は工房へ・ゆっくりとしかし確実な作業---

金曜は工房へ。
今日は天気もよくぽかぽか陽気だ。
最近工房は、あまり忙しい状態ではないようで、3〜4人常駐という感じだ。

サンカルロの仮面のオブジェの方はほぼテクスチャー付けが終わったようだ。
発掘された古代の戦闘用仮面というイメージで鉄が錆びて、ただれている表情が
例の発泡ポリ溶剤で作られている。
あとは下塗りされた色にさらに仕上げの色を付けていく作業が残る。

この一連の作業もサンカルロの舞台美術家(マッキニスト=大道具さんではない)がやってきて、
彫刻家が発泡スチロールから掘り出した外形にそのポリ溶剤でただれた表情を付ける。
それも助手と2人でゆっくりとだが、丁寧に確実に作業していく。
ほんと、一人の芸術家が絵や彫刻を仕上げていくように、ゆっくりとだが、
その人の中にあるイメージを確実に現実化していくという感じだ。
だから、イタリア人がおこなっているこのような作業には他の人が手を出せないという感じがある。
それは書き割りの絵の作業にしてもそうだ。

一つの舞台に流れる時間が今のスクラップ&ビルドを物凄いスピードで繰り返している
日本の舞台状況とはだいぶ違う。
おそらく成功した一つのすばらしい舞台は何十年も再演を繰り返されていくにちがいない。

青年団の公演でも一つの演目の上演期間は今の日本の状況に比べるとかなり
ロングスパンでおこなわれているが、その一つの原形がこのイタリアにもあるのだ。

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